いちばん初めにあった海 加納朋子さんの本を本格的に読んでみる事にしたので、いろいろ見比べて、これをチョイス。
「いちばん初めにあった海」です。
 本当は、デビュー作だという「ななつのこ」から読んでみるつもりでいたんですが、カバーに書かれていた「胸いっぱいに広がる、ぬくもりあふれたミステリー」というアオリ文章に、なんだか心惹かれたので、これを選択。

 この本には、表題作となる「いちばん初めにあった海」と、もう1本「化石の樹」という、2つの話が収録されています。
 まず、この構成が上手い。
 しばらく気付かなかったけど、気付いたら普通に感嘆です。なるほど、これは文学小説っぽくも見えるけど、紛れもなくミステリーだ。

 で、内容はというと。
「いちばん初めにあった海」は、1人暮らしをしている女性が主人公。ある日、見覚えの無い本を見つけて、開いてみたら、その中には見覚えの無い人物からの手紙が挟まっていて……という内容。
 彼女は、母親を失ってしまった傷を抱いているという設定です。なのですが、読み進めていくと、彼女が抱えているものは、それだけではないと分かります。「それが何なのか思い出せない」という主人公と一緒に、読者も一緒になって、失った記憶を追いかけていきます。
 それがなんであったのかを知るシーン、そしてエンディングでは、思わず感嘆の息をつきましたね。うん、こういうの大好きなのもあるんだろうけど、非常に上手い。

 本に、癒しと再生の物語……って書いてあったのですが、まさにテーマはそれです。
 失ったものがあり、それを癒して、再び立ち上がるところまで。
 そういうテーマがぎっしりと描かれている、素敵なお話。
 失った記憶を探る部分はミステリーですが、でも、どちらかというと素敵な文学小説を読んだ気分です。や、文学小説って読まないけど。勝手なイメージなので、ちゃんとした人から見たら、変なこと言ってるなぁってなるかもしれません(笑)

 で、もう1作の「化石の樹」では、主人公は別の人物に変わります。視点から男性だと分かります。つまり、「いちばん~」とは別人。
 ここでは、「いちばん~」とは全然違うストーリーが描かれます。彼が子供の頃に見た、化石の樹のはなし。出会った不思議な女の子のこと。
 それから、譲り渡されたノートと、それに描かれた、とある女性の手記の内容。幼稚園にやってきた、ある親娘について描かれます。

 扱われているのは虐待です。母と娘の関係。心に痛いけど、それほどキツく感じないのは、作者の上手さなんだろうなぁ。キャラクター性、雰囲気、文体まで全部素敵すぎる。
 ここで残される謎は、母の唐突な死と、娘が呟いた不穏な言葉。もしかして、本当に娘が母を殺したのだろうか……?

 といった謎を追いかけていくのですが、「いちばん~」よりも短い話なので、「いちばん~」の後で読むと、割とあっさり終わった気分になれます。
 ただし、面白さは引けを取りません。じっくり読むと、「いちばん~」の時から仕込まれていた複線に気付かされて、かなり楽しいです。両方読んだあとなら、これがまぎれもなくミステリーだという事が、よくわかります。
 私個人の趣味でいうなら、2つの短編を比較すると、こちらの方が好みかもしれません。もちろん、2編揃っていなければ、そもそもの面白さが半減なのですが。

 それにしても、いまのところ、4冊読んでどれも当たりっていうのは、すごいかも。
 きっと、私に合う作家さんなんでしょうね。
 これは残りの作品にも期待です。早く読まなくちゃ。

いちばん初めにあった海 (角川文庫)いちばん初めにあった海 (角川文庫)
加納 朋子


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2007/10/19 (Fri) 00:33 | | コメントする(0) | Trackback(0)
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